東京高等裁判所 昭和26年(ツ)50号 判決
上告人 堀直吉
被上告人 小林市太郎
〔抄 録〕
上告理由第一点につき、
記録によれば本件第一審の判決をした裁判官は第二審の判決に関与した裁判官とは全然異なることが認められるから、右第一審に対する関係に於て原審裁判官が民事訴訟法第三十五条第六号本文にいわゆる仲裁判断又は前審の裁判に関与した場合に該当しないことは勿論であつて、只本訴に於て上告人が執行力の排除を求めている新潟地方裁判所昭和二十四年(レ)第一号家屋明渡訴訟事件の口頭弁論調書(和解調書)に表示されてある右口頭弁論(和解)に立会つた裁判官の内裁判官中村憲一郎は本件原判決に関与していることが記録上明らかであり、上告人の主張は畢竟この事実を以て前記民事訴訟法第三十五条第六号の場合に該当するものとして原判決が右法条に違背したものであるとするにあると推認されるのであるが、裁判上の和解は同条に定むる仲裁判断とは全然異るものであつて、専ら当事者の合意によつて成立するものであり、裁判上の和解に立会つた裁判官は場合により和解を成立させるべく調停の労をとることがあるに止まりそれ以上自ら和解条項を決定するものではないのに反し、仲裁判断は仲裁人が自らその決定をするのであるから、和解に立会つた裁判官がその和解調書に対する請求異議訴訟の審判をしても、仲裁人として仲裁判断に関与した裁判官が右仲裁判断に対する不服申立の訴訟の裁判官としてその仲裁判断の当否又は効力の有無に付判定をする場合に於けるような裁判に対する信頼を失せしめることあるべき虞れはなく、従つて原審の裁判官が前記裁判上の和解に立会つた事実を以て裁判に対する信頼を維持せんが為裁判官の除斥の事由の一として定められた民事訴訟法第三十五条第六号にいわゆる裁判官が仲裁判断に関与した場合又は之に準ずべき場合とすることはできない。又右民事訴訟法第三十五条第六号にいわゆる前審と後審との関係は同一事件に付審級を異にする裁判所の間の関係を指称するものであるところ、記録によれば前記和解の基本たる訴訟事件は本件被上告人から上告人に対し被上告人の所有家屋の明渡をその所有権に基ずいて求めたものであることが認められるから、右事件は右和解調書の執行力の排除を求める本訴とは全然別個のものであつて、両者は叙上の前審後審の関係には立たないものと言わなければならない。然らば前記裁判上の和解に立会つた裁判官の一人が原判決に関与したことは何等違法とすべきものでなく、上告人の主張は何等その理由がないものである。